慰謝料は『精神的苦痛』を補償する費目
交通事故の損害賠償は、大きく分けると『積極損害』『消極損害』『慰謝料』の3層で構成されます。積極損害は治療費や通院交通費など実際に支払った費用、消極損害は休業損害や逸失利益のように本来得られたはずの収入、慰謝料は痛みや不安、生活制限による精神的苦痛への補償です。金額が大きく見える場面でも、慰謝料だけで構成されることは稀で、他費目との関係を理解することが重要です。
事故直後は『いくらもらえるか』に意識が向きがちですが、実務では『通院・施術の必要性を示す記録が十分か』が先に問われます。通院頻度が極端に低い、医師指示と異なる通院実態が続く、症状の説明が一貫しないといった事情があると、慰謝料評価は下がりやすくなります。まずは通院・施術の連続性を確保し、その上で補償を整理する順番が安全です。
慰謝料が問題化しやすい3局面
第一に、通院期間が長期化した局面です。保険会社は医学的相当性を確認し、必要性が弱いと判断すると治療費対応の縮小を提案します。第二に、症状固定前後の局面です。ここでの書類不備は後遺障害評価に直結します。第三に、示談提示の局面です。提示書面に何が含まれ、何が除外されているかを読まずに合意すると、後から覆すのは困難です。
支払主体と支払順序を理解する
通常、対人賠償の実務では自賠責保険が一次的な下支えとなり、限度額を超える部分を任意保険が補完します。自賠責は被害者保護を目的とした最低限補償であり、任意保険は契約内容に応じて上乗せ補償を行う構造です。加害者本人への直接請求は、任意保険会社の対応範囲外費目や、契約上争点が残る場面で問題化することがあります。
被害者側は『誰に何を請求しているか』を費目別に把握しておく必要があります。治療費は病院・整骨院へ直接支払いされることもあれば、一時立替後に清算されることもあります。慰謝料は最終的に示談金としてまとめて支払われるのが一般的で、途中段階では概算提示に留まります。途中のやり取りを全て示談成立と誤解しないことが重要です。
請求の流れと実務上のチェックポイント
実務フローは『事故発生→受診→保険会社連絡→通院継続→症状固定判断→損害項目整理→示談交渉』の順で進みます。各段階で必要な資料が異なるため、後追い収集では抜け漏れが起きやすくなります。通院証明、診断書、施術録、勤務先書類、交通費記録などを初期から保管し、月単位で棚卸しする運用が有効です。
示談交渉では、提示額だけでなく前提条件を確認することが重要です。通院期間、通院日数、過失割合、既往症の扱い、休業損害の算定基礎、今後治療費の扱いが曖昧なまま合意すると、後から追加主張が難しくなります。数字の大小だけでなく、評価根拠の整合性を確認する姿勢が結果を左右します。
具体例・計算例
例: 通院期間4か月、実通院日数45日のケースでは、自賠責基準の慰謝料は 4,300円 × min(45×2, 120) = 387,000円。
ここに休業損害や治療費が加わるため、最終示談額は慰謝料単体より大きくなるのが一般的です。
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よくある質問(FAQ)
Q. 治療費が打ち切られたら慰謝料もゼロになりますか?
A. 直ちにゼロにはなりません。打ち切り後も医学的必要性が認められる場合は、立替通院や資料整備を通じて後日請求できる余地があります。
Q. 整骨院だけの通院でも慰謝料は認められますか?
A. 認められるケースはありますが、医師の診断・指示と整合した通院実態が重要です。整形外科との連携が弱いと争点化しやすくなります。
Q. 保険会社の最初の提示は妥当ですか?
A. 妥当な場合もありますが、任意保険基準寄りで提示されることが多いため、根拠資料を確認し比較検討することが推奨されます。